住宅購入は資産形成なのか──持ち家信仰と流動性リスク

「家賃を払い続けるくらいなら、家を買った方が資産になる」

住宅購入について考えるとき、よく聞く言葉である。確かに、住宅ローンを返済していけば最終的には土地や建物が残る。賃貸住宅では、どれだけ家賃を払ってもその住宅の所有権を得ることはない。

しかし、住宅を資産として考えるなら、買うときだけを見ていては足りない。

必要になったときに売れるのか。住み替えられるのか。最後まで住み続けるのか。相続された後は誰がどう処分するのか。

住宅購入は「買った時点」で完結するものではない。資産形成として考えるのであれば、売却、住み替え、老後、相続まで含めた「出口」まで考える必要がある。

住宅は確かに資産である

住宅が資産であること自体は間違いではない。

住宅ローンを完済すれば土地や建物が残り、売却できれば現金に変えることもできる。ローン返済後は家賃を払い続ける必要もなくなるため、老後の住居費を抑える効果もある。

一方で、ローンを完済しても固定資産税、修繕費、マンションであれば管理費や修繕積立金などは残る。住宅を所有すれば住居費が完全になくなるわけではない。

それでも、自分が住み続けられる場所を確保できることには大きな価値がある。

問題は、住宅の市場価値を、そのまま自由に使える金融資産と同じように考えてしまうことである。

住宅価格が上がっても生活費には使えない

例えば3,000万円で購入した住宅が、将来4,000万円になったとする。

資産価値は1,000万円増えたことになる。しかし、その住宅に住み続ける限り、この1,000万円を生活費として使うことはできない。

株式や投資信託なら、必要な金額だけを売却することができる。住宅では「玄関だけ100万円分売る」といったことはできない。

住宅を売却して4,000万円を現金化すれば、今度は次に住む場所を確保する必要がある。別の住宅を購入するにしても、賃貸へ移るにしても、新たな住居費が発生する。

住宅は価値のある資産である一方、生活そのものと結びついているため、自由には動かしにくい資産でもある。

住宅には流動性の問題がある

さらに、住宅は売ろうと思った日に現金になるわけではない。

東日本不動産流通機構の2025年の統計では、首都圏で物件を登録してから成約するまでの日数は、中古マンションで平均82.5日、中古戸建住宅では100.9日だった[1]。これは実際に成約した物件の平均であり、地域や価格、物件の状態によってはさらに長期間売れない可能性もある。

売却には費用もかかる。不動産会社を介して売却する場合、宅地建物取引業者が受け取れる仲介手数料には法令上の上限が定められており、売買価格に応じた取引コストが発生する[2]。

金融資産であれば、数日以内に換金できるものも多い。一方、不動産は売却価格だけでなく、「いつ売れるか」も分からない。

住宅の資産価値を考えるときには、価格だけでなく、この流動性も考える必要がある。

将来「売れる住宅」なのか

住宅を購入するときには、将来価格が上がるか下がるかに目が向きやすい。

しかし長期的には、その価格以前に「その住宅を買いたい人がいるか」という問題がある。

国立社会保障・人口問題研究所の地域別将来推計人口では、政令指定都市を1市として数えた1,728市区町村のうち、2020年から2050年に人口が減少するのは1,651市区町村、95.5%と推計されている。このうち1,046市区町村では人口が30%以上減少するとされている[3]。

人口減少だけで個々の住宅価格を予測できるわけではない。駅への距離、雇用、医療、商業施設、交通、地域内への人口集中などによって住宅需要は大きく異なる。

ただし、人口が大きく減る地域で「将来も当然に買い手がいる」と考えるのは危険である。

日本ではすでに住宅の余剰も増えている。2023年の住宅・土地統計調査では、全国の空き家は900万2千戸、空き家率は13.8%となり、ともに過去最高だった。賃貸用、売却用、別荘などを除いた空き家だけでも385万6千戸に達している[4]。

だからといって、すべての住宅が売れなくなるわけではない。

人口が集まる都市部、駅に近い住宅、生活利便性の高い地域などと、人口流出が続く地域とでは事情が異なる。

住宅を資産として考えるなら、現在住みたい場所かどうかだけでなく、

「20年後、30年後にも誰かが住みたい場所なのか」

という視点も必要になる。

それでも持ち家には大きな意味がある

ここまで書くと、住宅購入に否定的な話に見えるかもしれない。

しかし、持ち家には金融資産にはない重要な機能がある。

住む場所を確保できることである。

厚生労働省と国土交通省は、高齢者の居住安定に関する基本方針で、住まいを生活の基盤と位置付け、高齢者世帯では住宅市場を通じた住宅確保が困難になる場合があるとしている[5]。

実際、民間賃貸住宅では高齢者の入居に対して賃貸人が拒否感を持つ場合がある。国土交通省の調査では、入居制限を行っている団体に対し、高齢者の入居を制限する「最も該当する理由」を尋ねたところ、「居室内での死亡事故等に対する不安」が90.9%を占めた[6]。

この点では持ち家は強い。

住宅ローンを完済し、自宅で暮らし続けられるのであれば、高齢になってから新しい賃貸住宅を探す必要性は小さくなる。

住宅の価値は、売却価格だけではない。

最後まで住み続けるのであれば、その住宅は「売るための資産」というより、老後の住居を確保するための資産である。

一方、老後に小さな住宅へ住み替えて差額を生活資金にするのであれば、売却しやすさが重要になる。

同じ住宅でも、想定する出口によって資産としての意味は変わる。

老後には住宅が「使えない資産」になることもある

住宅の出口は、自分が住まなくなったところで終わるとは限らない。

最後に残るのが相続である。

国土交通省の「令和6年空き家所有者実態調査」では、調査対象となった空き家の57.9%が相続によって取得されたものだった。また、相続前に住宅の扱いについて対策をしていなかった場合、その後も活用や解体をせず空き家として持ち続ける割合は、事前に対策をしていた場合の約1.5倍だった[7]。

親にとっては長年住んだ資産でも、子どもにとって使いやすい資産とは限らない。

すでに自宅を持っているかもしれない。遠方に住んでいるかもしれない。仕事や生活の基盤がその地域にないかもしれない。

売ろうとしても買い手が見つからなければ、固定資産税や管理、修繕、草木の手入れなどが残る。

住宅は「相続財産」であると同時に、場合によっては「管理し続けなければならない資産」にもなる。

さらに2024年4月1日からは相続登記が義務化され、不動産を相続したことを知った日から原則3年以内に相続登記を申請する必要がある[8]。

「子どもに家を残せば資産になる」と単純には考えにくい。

誰が住むのか。売るのか。貸すのか。生前に処分するのか。

そこまで考えて初めて、住宅の出口が見えてくる。

「家賃は捨て金」という考え方も単純すぎる

一方、賃貸住宅の家賃をすべて「捨て金」と考えるのも違う。

家賃は住宅というサービスを利用するための費用である。

住宅の購入資金を用意する必要がなく、固定資産税や大規模な修繕費を直接負担する必要もない。転勤、転職、結婚、離婚、介護などで生活環境が変わったときには、比較的住み替えやすい。

つまり家賃には「住む場所」だけでなく、「移動しやすさ」に対して払っている部分もある。

持ち家には居住の安定があり、賃貸には移動の自由がある。

どちらが優れているというより、何を重視するかの違いである。

住宅を買うなら「資産価値」より「出口」を考える

住宅を買うときには、

「この住宅は値上がりするか」

ということが気になりやすい。

しかし、将来の住宅価格を正確に予測することは難しい。

それよりも考えやすいのは、

  • 将来売却するとしたら買い手が見つかりやすいか
  • 住み替える必要が生じたときに売却できるか
  • 貸すという選択肢を持てるか
  • 老後もその場所で生活を続けられるか
  • 相続された後に処分しやすいか

という出口である。

駅から近いこと、生活に必要な施設があること、人口や雇用が維持されそうな地域であることなどは、自分が暮らしやすいだけでなく、将来別の人がその住宅を必要とする可能性にも関係する。

住宅を資産として考えるなら、「自分が今住みたいか」と同時に「自分が住まなくなった後にどうするか」まで考える必要がある。

持ち家か賃貸かではなく、資産全体で考える

結局、「持ち家か賃貸か」という議論だけでは答えは出ない。

住宅は生活の場であり、同時に大きな資産でもある。そして住宅ローンを利用するのであれば、大きな負債も同時に抱える。

例えば金融資産1,000万円の人が4,000万円の住宅を購入した場合、その人の資産全体に占める住宅の存在は非常に大きくなる。

住宅購入は、生活基盤への大型集中投資とも言える。

その住宅に長期間住み続けるのであれば、それ自体に十分な意味がある。資産価値を最大化する必要はない。

しかし、

「家賃は消えてしまうが、持ち家なら資産が残る」

という理由だけで数千万円の住宅を購入するのは危うい。

買うときには、売るときも考える。

住むときには、住めなくなったときも考える。

自分の資産として考えるなら、相続された後のことも考える。

住宅購入で本当に問うべきなのは、「持ち家と賃貸のどちらが得か」ではない。

この住宅を持つことで、将来の自分の選択肢は広がるのか。それとも狭くなるのか。

住宅は「資産」である前に「生活の基盤」である。

そして資産形成として住宅を考えるのであれば、その価値は購入した時点ではなく、最後の出口まで見て初めて分かる。

参考文献

[1] 公益財団法人東日本不動産流通機構『首都圏不動産流通市場の動向(2025年)』2026年。
https://www.reins.or.jp/pdf/trend/sf/sf_2025.pdf

[2] 国土交通省『宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額』(昭和45年建設省告示第1552号、最終改正:令和6年国土交通省告示第949号)。
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001750229.pdf

[3] 国立社会保障・人口問題研究所『日本の地域別将来推計人口――令和2(2020)~32(2050)年――(令和5年推計)』人口問題研究資料第349号、2024年。
https://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson23/6houkoku/houkoku.pdf

[4] 総務省統計局『令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果』2024年。
https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/pdf/kihon_gaiyou.pdf

[5] 厚生労働省・国土交通省『高齢者の居住の安定の確保に関する基本的な方針』(平成21年厚生労働省・国土交通省告示第1号、最終改正:令和7年厚生労働省・国土交通省告示第8号)。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001913476.pdf

[6] 国土交通省住宅局・厚生労働省社会・援護局・老健局『住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)等の一部を改正する法律等について(関係事業者向け)』2025年6月。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/01_sn_kaisei_jyuutakusafetynet_jigyou.pdf

[7] 国土交通省『令和6年空き家所有者実態調査 結果のポイント(1/2)』2025年。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001907473.pdf

[8] 法務省『相続登記の申請義務化について』2024年(2026年4月1日更新)。
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html

この記事を書いた人 Wrote this article

ぜんたろう

ぜんたろう

FP2級/宅建士。お金の話が好物。インデックス投資がメインなのに個別株・ETFにも手を出す。ここ数年で投資スタイルが確立した筈だがジャンク株に心を奪われがち。 --- 永遠の見習いプログラマ (SIer複数→スタートアップ複数→大きめベンチャー)

TOP