「とりあえず大学」をやめる設計──工学系専門校という現実解

前回の記事では、大学を減らすなら労働市場改革を同時に進める必要があると書いた。

しかし、そこで自然に次の疑問が生まれる。

では、大学以外にどんな進路があり得るのか。

この問いに答えない限り、

  • 大学を減らすべき
  • 学歴依存を減らすべき

と言っても現実味がない。

しかも現状を見ると、日本ではなお「とりあえず大学」を選びやすい構造が続いている。文部科学省の令和7年度学校基本統計(学校基本調査)では、大学(学部)進学率は58.6%、高等教育機関全体への進学率は85.4%に達している。一方で、日本私立学校振興・共済事業団の令和7(2025)年度 私立大学・短期大学等入学志願動向によれば、私立大学594校のうち入学定員充足率が100%未満だった学校は316校、全体の53.2%だった。進学需要は高いのに、大学の供給構造はすでに歪んでいる。

さらに、文部科学省の関係データ集では、18歳人口は「現在は約110万人」で、2035年には約96万人、2040年には約82万人まで減る推計が示されている。つまり、大学だけを増やし続ける前提は、人口動態の面から見ても長くは持たない。

本記事では、その一つの現実解として、

工学系専門校

という選択肢を考えたい。

「とりあえず大学」は合理的な行動

「とりあえず大学」という言葉には、どこかネガティブな響きがある。

しかし私は、これは思考停止ではなく、

合理的なリスク回避

だと思っている。

なぜなら現在の構造はシンプルだからだ。

  • 企業が学歴で足切りする
  • 大学に行かないと不利になる
  • 親は進学を勧める
  • 進学率が上がる

これは個人の問題ではない。

構造の問題である。

実際、大学進学率は長期的に上がり続けてきた。文部科学省の審議会資料「大学への進学率の推移」では、平成2年時点の4年制大学進学率は24.6%だったが、その後上昇を続け、いまや大学(学部)進学率は58%台にある。これだけ多くの人が大学へ向かうのは、個々人が急に学問好きになったからではなく、大学進学が依然として就職市場での保険として機能しているからだ。

問題は「量」ではなく「中身」

大学進学率が高いこと自体が問題なのではない。

重要なのは、

  • 何を学んだか
  • 何ができるか
  • どんな価値を生むか

である。

しかし現実には、

  • 教科書を深く読めない
  • 論理的に考える訓練が不足
  • 学位だけがシグナル化する

というケースも少なくない。

結果として、

能力より学歴が強く機能する

状況が生まれる。

しかも大学の数が多いこと自体が、能力証明の質を保証するわけでもない。先に触れたとおり、2025年度の私立大学では入学定員充足率100%未満の学校が53.2%に達している。供給過剰の中では、「大学に入ったこと」自体の情報価値は薄まりやすい。その一方で、企業はなお学歴を使わざるを得ない。ここにねじれがある。

学歴フィルターはなぜ消えないか

よくある意見として、

企業が学歴フィルターをやめればいい

というものがある。

気持ちは分かるが、これは現実的ではない。

企業から見ると学歴は、

  • 採用コスト削減
  • 外れリスク低減
  • スクリーニング高速化

という機能を持つ。

つまり、

学歴フィルターは間違っているから残っているのではない
合理的だから残っている

のである。

応募者が多い以上、企業は短時間で候補者を絞り込まなければならない。選考の現場にいるのは、理想論ではなく、限られた人事コストで採用を成立させなければならない組織である。そうである以上、「完全ではないが安くて速い指標」は簡単には消えない。

必要なのは代替シグナル

ならば答えはシンプルだ。

学歴を壊すのではなく、

学歴より強いシグナルを作る

必要がある。

これは一部では既に起きている。

たとえば、英語ならIIBCのTOEIC Programが企業の採用や昇進・昇格、海外赴任の判断材料として使われている。IIBCは、約60%の企業が採用時にTOEIC Programのスコアを要件または参考として利用していると公表している。またIT分野では、IPA(情報処理推進機構)が情報処理技術者試験を「ITの知識・技能に関する共通の評価指標」として活用されているとし、企業における活用事例も公開している。基本情報技術者試験や応用情報技術者試験は、少なくとも「何も証明していない」状態よりは、はるかに強い外部シグナルになる。

工学系なら、資格はさらに分かりやすい。たとえば第三種電気主任技術者試験は「理論」「電力」「機械」「法規」の4科目から成り、電気系の基礎学力と専門理解をかなり広い範囲で問う。厚生労働省の技能検定制度も、機械加工や建築大工など133職種について技能水準を評価する国家検定制度として整備されている。

教育機関そのものがシグナルとして機能している例もある。典型は国立高専である。国立高専機構の資料によれば、国立高専本科卒業生の就職率はほぼ100%で、2024年度版の概要資料では、令和5年度本科卒業者のうち就職希望者の就職率は99.1%とされている。しかも就職先は製造業、情報通信業、建設業など技術系の主要分野に広がっている。企業が見ているのは「学歴」というより、「この訓練を通った人なら、これくらいの基礎学力と実務理解はあるだろう」と推定できることなのである。

企業が欲しいのは学歴そのものではない。

能力を予測できるシグナル

である。

工学系専門校という選択

そこで考えられるのが、

工学系専門校

である。

ここで言う専門校は、一般的な「専門学校」のイメージとは少し違う。

目指すのは、

  • ブルーカラー
  • 単純労働

ではない。

むしろ、

高付加価値の技術者層

である。

これは空想ではない。日本にはすでに近いモデルがある。国立高専は高い就職率と大学編入ルートを両立しているし、職業能力開発総合大学校も、2026年3月卒業生に対する有効求人倍率12倍を公表している。また同校は実就職率5年連続100%を案内している。つまり、日本でも「選抜」「実習」「産業接続」「就職実績」を組み合わせた教育機関は成立している。足りないのは、規模と認知と制度的位置づけである。

必要な設計① 厳格な選抜

最初に必要なのは入口の質である。

最低でも、

  • 数学基礎
  • 読解力
  • 論理構造理解

は必要になる。

重要なのは、

誰でも入れる設計にしないこと

である。

入口が緩いと、シグナル価値が消える。

大学が学歴シグナルとして機能してしまう理由の一つは、「入学時点で最低限の選抜がある」と企業がみなしているからだ。代替ルートを作るなら、その代替ルートにも最低限の選抜が要る。実務教育だけを強調して入口を甘くすると、「単なる受け皿」に見えてしまう。

必要な設計② 実技+構造理解

教育内容も重要である。

必要なのは、

  • 電気
  • 機械
  • 建設
  • 制御
  • CAD

などの実技だけではない。

同時に、

  • 仕様書を読む
  • 原因を分析する
  • 構造を理解する

能力が必要になる。

単純作業者ではなく、

問題を解ける技術者

を育てる必要がある。

ここで参考になるのも高専や職業能力開発大学校である。高専は現場に近い実習を重視しつつ、数学・物理・専門科目を切り離さずに教える。職業能力開発大学校も、ものづくりに必要な「科学的、工学的基礎知識」と「技能・技術」の両方を前提にしている。工学系専門校が目指すべきなのは、まさにこの「手を動かせるだけではなく、なぜそうなるかを説明できる人材」である。

必要な設計③ 産業直結

教育が現場と離れてはいけない。

  • 長期インターン
  • 企業連携
  • 実課題ベース

が必要になる。

重要なのは、

卒業したら即戦力

という状態を作ることだ。

これは理念ではなく、設計の問題である。産業界と接続された教育機関ほど、就職実績は安定しやすい。国立高専の就職先が製造業、情報通信業、建設業などに広く分散していることや、職業能力開発総合大学校で有効求人倍率12倍という数字が出ていることは、教育内容が企業側の需要と接続している証拠でもある。学校の中だけで完結するカリキュラムでは、代替ルートの信頼は育たない。

必要な設計④ 成果の可視化

これは極めて重要である。

  • 初任給
  • 就職率
  • 昇進速度
  • 転職市場価値

が見えなければ、誰も選ばない。

親も学生も合理的だからだ。

代替ルートを普及させたいなら、「理念」ではなく「結果」を見せる必要がある。高専のように就職率や進路内訳を毎年公開すること、職業能力開発大学校のように求人倍率や就職実績を前面に出すことは、そのまま制度の信頼性につながる。見えない進路は、選ばれない。

必要な設計⑤ 再接続

最後に重要なのがこれである。

戻れること

である。

例えば、

  • 社会人大学
  • 編入
  • リスキリング

のルートを用意する。

早期分岐の問題は、

分けることではない
戻れないこと

にある。

国立高専の進路データを見ると、令和6年度卒業者の58%が就職しつつ、25%は大学編入、15%は専攻科進学を選んでいる。つまり、技術者養成の早期ルートと、後から学び直すルートは両立できる。工学系専門校も、ここを真似るべきだ。最初の分岐で人生を固定する仕組みではなく、実務に出てからも学位や上位資格に接続できる仕組みにしなければならない。

なぜ今必要なのか

背景には構造変化がある。

まず、AIはホワイトカラーの一部を無傷では済ませない。IMFのGen-AI: Artificial Intelligence and the Future of Workは、先進国では雇用の約60%がAIの影響を受けうるとし、そのうち相当部分で代替または圧縮の可能性を指摘している。特に、定型的な認知業務に近い職種は相対的に脆弱である。

一方で、現場側では担い手不足が深刻化している。国土交通省の改正建設業法についてによれば、建設業就業者は483万人まで減少し、55歳以上が36.6%、29歳以下が11.6%となっている。技能継承の問題は、もはや先送りできない。

つまり、

ホワイトカラー偏重の前提が崩れ始めている

のである。

これから必要なのは、「大学へ行くか、行かないか」という二択ではない。大学以外にも、高い選抜性と高い実務性を持ち、しかも後から学び直せるルートを整えることだ。

結論

「とりあえず大学」は合理的な行動である。

だから責めても意味がない。

変えるべきなのは個人ではなく構造である。

必要なのは、

大学以外でも能力を証明できるルート

である。

そのルートは、単なる受け皿であってはならない。

  • 入口で一定の選抜がある
  • 実技と構造理解を両立する
  • 産業界と直結している
  • 成果が数字で見える
  • 後から大学や上位資格へ接続できる

そうした条件を満たすなら、

工学系専門校による高付加価値人材育成

は十分に現実解になりうる。

大学を減らす議論を本気で進めるなら、次に考えるべきはそこではないだろうか。

参考資料

この記事を書いた人 Wrote this article

ぜんたろう

ぜんたろう

FP2級/宅建士。お金の話が好物。インデックス投資がメインなのに個別株・ETFにも手を出す。ここ数年で投資スタイルが確立した筈だがジャンク株に心を奪われがち。 --- 永遠の見習いプログラマ (SIer複数→スタートアップ複数→大きめベンチャー)

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