大学の数を減らすべきだ、という議論を見かけることがある。
人口減少が進む中で、定員割れを起こす大学が増えているのは事実である。
実際、18歳人口は1992年前後の約205万人をピークに減少を続け、2024年には約109万人まで縮小した。ピーク時と比べると、ほぼ半減である。
(出典:内閣府・経済財政諮問会議資料/総務省「人口推計」等を基にした整理)
一方で、大学進学率は上昇してきた。
1990年頃には大学学部への進学率はおおむね25%台だったが、現在は6割近い水準にある。さらに、大学・短大・高専・専門学校を含む高等教育機関全体への進学率は、2024年度に87.3%となり、過去最高となった。
(出典:文部科学省「令和6年度 学校基本調査 結果の概要」)
また、私立大学の定員割れも深刻である。
日本私立学校振興・共済事業団の「令和6年度 私立大学・短期大学等入学志願動向」によれば、2024年度の私立大学598校のうち、入学定員充足率が100%未満だった大学は354校、割合にして59.2%だった。
(出典:日本私立学校振興・共済事業団「私立大学・短期大学等入学志願動向」)
つまり、
- 若年人口は大きく減った
- しかし大学進学率は上がった
- その結果、大学の供給過剰が見えやすくなった
- 特に私立大学では、約6割が定員未充足となっている
という構造が起きている。
私自身も、大学の統廃合そのものには一定の合理性があると思う。
ただし、ここで注意すべきなのは、大学数だけを見て「多すぎるから減らせばよい」と考えることではない。
大学が増えた背景には、単に教育機関側の問題だけでなく、
大学に行かないと不利になりやすい労働市場
があるからである。
大学問題の本体は労働市場にある
現在の日本では、
- 大学に行かないと就職で不利
- 大学卒業が事実上の参加資格になりやすい
- 新卒カードが極めて重要
- 卒業年度や年齢が採用上のシグナルになりやすい
という構造が存在する。
その結果、
- とりあえず大学へ進学する
- 大学進学率が上がる
- 大学側も定員を維持しようとする
- 若年人口が減ると定員割れが増える
という流れが続いてきた。
つまり、
大学が多すぎるから進学率が上がった
というより、
労働市場の仕組みが大学進学を促している
という側面が大きい。
もちろん、大学の教育内容や経営努力に問題がないと言いたいわけではない。
しかし、企業側が「大卒」「新卒」「若さ」を強いシグナルとして使い続ける限り、若者にとって大学進学は保険としての意味を持ち続ける。
その状態で大学だけを減らせば、問題の本体には手を付けないまま、若者側の選択肢だけを狭めることになりかねない。
大学だけ減らすと何が起きるか
仮に大学数だけを減らした場合、
- 進学機会が減る
- 選抜が厳しくなる
- 地方の進学先が減る
- 経済的に都市部へ出にくい若者ほど不利になる
- 行き場を失う若者が増える
という結果になりやすい。
しかし企業側の採用慣行が変わらなければ、
- 大学卒であること
- 新卒であること
- 一定年齢までに就職活動を終えること
の重要性はそのまま残る。
すると、
受け皿だけ減り、競争だけが激化する
ことになる。
これは改革ではない。
むしろ、大学改革の名を借りて、若年層にリスクを押し付けるだけになりかねない。
大学の統廃合を議論するなら、同時に「大学に行かなかった人がどう評価されるのか」も設計しなければならない。
新卒一括採用の見直し
最初に手を付けるべきなのは採用制度である。
現在の日本では、
- 卒業年度
- 年齢
- 新卒かどうか
- 就職活動のタイミングに乗れたか
が重視されやすい。
しかし本来重要なのは、
何ができるか
であるはずだ。
そのためには、
- 通年採用の拡大
- 卒業年度要件の縮小
- 既卒・第二新卒への門戸拡大
- 中途採用比率の増加
- 学び直し後の再挑戦ルートの整備
が必要になる。
実際、企業側の採用意欲は新卒に集中している一方で、若年人口そのものは減っている。リクルートワークス研究所の大卒求人倍率調査では、2027年卒の大卒求人倍率は1.62倍とされており、企業側の新卒採用意欲はなお高い。
(出典:リクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査 2027年卒」)
これは一見、学生に有利な売り手市場にも見える。
しかし裏を返せば、企業がいまだに「若い新卒」を重要な採用チャネルとして見ているということでもある。
若者が減っているのに、新卒一括採用の枠組みに依存し続ければ、企業側も人材確保が難しくなり、学生側も特定の時期に失敗できない構造から抜け出せない。
大学を減らすなら、まずこの「新卒であることの過剰な価値」を弱める必要がある。
職種別採用への移行
もう一つの課題は、総合職中心の採用である。
日本企業は新卒を一括採用し、
- 配属後に育成する
- 配属後に適性を見る
- 会社都合で職種を決める
という形を取りがちである。
この仕組みでは、学生の具体的なスキルよりも、
- 大学名
- 学部名
- 地頭のよさ
- コミュニケーション能力
- 企業文化への適応力
がシグナルとして使われやすい。
その結果、大学名が重要になりやすい。
一方で、
- IT
- 会計
- 電気
- 機械
- 建設
- 介護
- 医療補助
- 施工管理
- データ分析
など、職種ごとの採用が増えれば、評価対象は学歴からスキルへ移りやすくなる。
もちろん、職種別採用にすればすべて解決するわけではない。
職種別採用には、
- 若者が早い段階で職種選択を迫られる
- 未経験者が入りにくくなる
- 企業内での柔軟な配置転換がしにくくなる
という副作用もある。
だからこそ必要なのは、総合職採用を一気に否定することではなく、
総合職だけでなく、職種別・技能別の入口も太くすること
である。
大学名だけでなく、職務能力、資格、制作物、実習経験、ポートフォリオ、職業訓練の成果が評価される入口を増やすべきだ。
職業教育の拡張
大学以外のルートも必要である。
現在の日本では、
- 大学
- それ以外
という極端な構造になりがちだ。
しかし本来は、
- 高専
- 専門学校
- 職業訓練校
- 企業内訓練
- 公的なリスキリング制度
がもっと大きな役割を担ってもよい。
例えば高等専門学校は、2027年度時点で全国58校、在学生数は約5.3万人である。規模としては大学全体に比べてかなり小さいが、実践的な技術者教育のルートとして重要な役割を持っている。
(出典:文部科学省「高等専門学校(高専)について」)
また、文部科学省と厚生労働省の就職状況調査では、2025年度の大学就職率は98.0%、高等専門学校は99.2%、専修学校専門課程は98.6%とされている。少なくとも就職率だけを見れば、大学以外の高等教育ルートにも十分な実績がある。
(出典:文部科学省「令和7年度大学等卒業者の就職状況調査」)
重要なのは、
大学以外でも安定したキャリアを築けること
である。
そのためには、単に「専門学校を増やす」「高専を増やす」だけでは足りない。
必要なのは、
- 職業教育の質保証
- 企業側の評価基準の明確化
- 資格や技能の社会的信用
- 卒業後の賃金・昇進ルート
- 学び直しによる再挑戦
- 大学編入や大学院進学への接続
まで含めた制度設計である。
大学以外の進路を「大学に行けなかった人の受け皿」として扱う限り、大学偏重は変わらない。
大学以外のルートを、積極的に選べる進路にしなければならない。
大学側にも改革は必要
もちろん大学側にも課題はある。
人口減少が続く以上、定員や大学数が現在のままでよいとは思えない。
とくに私立大学では、2024年度時点で定員未充足校が354校、割合にして59.2%に達している。
(出典:日本私立学校振興・共済事業団「私立大学・短期大学等入学志願動向」)
この状況で、すべての大学を現状維持するのは現実的ではない。
例えば、
- 充足率が低い大学の統合
- 定員の段階的縮小
- 学部・学科の再編
- 地域に必要な教育機能の維持
- 補助金の成果連動化
- 退学率、就職率、教育成果の可視化
- 財務状況の透明化
などは議論の余地がある。
ただし、ここでも注意が必要である。
定員割れだから即廃止、という単純な議論は危うい。
地方大学の中には、
- 地域医療
- 教員養成
- 看護
- 福祉
- 地域産業
- 地元就職
を支えている大学もある。
都市部の人気大学だけを残せばよい、という話ではない。
むしろ必要なのは、
残すべき教育機能と、整理すべき過剰供給を分けること
である。
大学数の削減は、財政効率だけでなく、地域社会の維持、若者の進学機会、産業人材の供給とセットで考える必要がある。
数字を見るときの注意点
大学改革を議論するとき、数字は重要である。
ただし、数字の置き方には注意が必要だ。
例えば「私立大学の約6割が定員割れ」という数字は強い。
しかし、これだけを見ると、
では6割の大学を減らせばよい
という短絡的な議論になりやすい。
実際には、
- 定員割れの程度は大学によって違う
- 学部単位では充足している場合もある
- 地域に必要な機能を担っている大学もある
- 定員割れでも就職実績が悪いとは限らない
- 逆に定員充足していても教育の質が高いとは限らない
という点を見なければならない。
また、大学進学率についても同じである。
大学進学率が上がったこと自体は、必ずしも悪いことではない。
高等教育を受ける人が増えたことは、社会全体の知識水準を高めた面もある。
問題は、
大学に行く人が増えたこと
ではなく、
大学に行かないと不利になりすぎること
である。
したがって、大学改革で見るべき数字は、大学数や定員割れ率だけではない。
少なくとも、
- 18歳人口
- 大学進学率
- 高等教育全体への進学率
- 私立大学の定員充足率
- 地域別の進学機会
- 高卒・専門卒・高専卒・大卒の就職率
- 初任給や生涯賃金
- 離職率
- 中途採用比率
- 職種別採用の広がり
をあわせて見る必要がある。
教育だけの数字ではなく、労働市場の数字とセットで見なければ、改革の方向を間違える。
本当に目指すべきもの
大学を減らすこと自体は目的ではない。
目的は、
大学に行かなくても人生の選択肢が確保される社会
を作ることである。
現在は、
大学へ行かないと不利だから大学へ行く
という構造になっている。
これを、
自分に合った進路を選べる
という構造へ変えていく必要がある。
そのためには、
- 大学へ行くルート
- 高専へ行くルート
- 専門学校へ行くルート
- 高卒で働くルート
- 働いてから学び直すルート
- 学び直して別職種へ移るルート
が、それぞれ社会的に評価されなければならない。
大学を減らすなら、その前提として、大学以外のルートを太くしなければならない。
おわりに
大学改革だけを議論すると、どうしても教育の問題に見える。
しかし実際には、
- 採用
- 労働市場
- 職業教育
- 人材評価
- 地域社会
- 若者の再挑戦
を含めた社会全体の問題である。
18歳人口はピーク時からほぼ半減した。
私立大学の約6割が定員割れしている。
一方で、高等教育機関全体への進学率は9割近くに達している。
この数字だけを見れば、大学の再編が必要だという議論には一定の説得力がある。
しかし、大学に行かないと不利になる労働市場をそのままにして、大学だけを減らせば、若者の選択肢を減らすだけになる。
だからこそ、
大学を減らすなら、労働市場も同時に変える
必要がある。
順番を間違えれば、改革ではなく、単なる選別強化になる。
本当に必要なのは、教育改革だけではなく、
教育と労働市場の再設計
なのではないだろうか。
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この記事を書いた人 Wrote this article
ぜんたろう
FP2級/宅建士。お金の話が好物。インデックス投資がメインなのに個別株・ETFにも手を出す。ここ数年で投資スタイルが確立した筈だがジャンク株に心を奪われがち。 --- 永遠の見習いプログラマ (SIer複数→スタートアップ複数→大きめベンチャー)