社会保険料はどこまで上がるのか──現役世代の負担には限界がある

給与明細を見て、「こんなに引かれるのか」と感じたことがある人は多いだろう。

所得税や住民税だけではない。健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、そして40歳を超えれば介護保険料も加わる。

厚生年金保険料率は2017年度以降18.3%で固定され、労使折半となっている。したがって、本人負担は9.15%である[1]。協会けんぽの平均健康保険料率は9.9%で、40歳以上65歳未満にかかる介護保険料率は1.62%である[2]。一般の事業の雇用保険料率は、労働者負担0.5%、事業主負担0.85%となっている[3]。

額面ではそれなりの給与を受け取っているはずなのに、手取りを見ると想像していたほど増えていない。

しかも、標準報酬月額の等級や上限はあるものの、給与が上がれば社会保険料も増える。

賃上げがニュースになる一方で、「給料が上がった割には生活が楽にならない」と感じる背景には、物価上昇だけでなく、こうした負担の存在もある。

問題は、現在の負担が高いか低いかだけではない。

社会保険料を、この先も上げ続けることができるのか。

ここに、日本の社会保障制度が抱える大きな問題がある。

年金は賦課方式、医療や介護も個人の積立ではない

社会保険という言葉から、支払った保険料を自分のために積み立て、将来その資金から給付を受ける仕組みを想像する人もいるかもしれない。

しかし、公的年金はそうではない。

日本の公的年金は賦課方式を基本としており、現在の現役世代が納めた保険料は、基本的に現在の年金受給者への給付に使われる。厚生労働省も「現役世代が納めた保険料は、そのときの年金受給者への支払いにあてられています」と説明している[4]。自分が納めた厚生年金保険料が、自分名義の口座に積み立てられているわけではない。

医療保険や介護保険は、年金と同じ意味で「賦課方式」と説明するものではないが、こちらも個人ごとに保険料を積み立てて将来の自分の医療費や介護費に備える制度ではない。

その時々に集められた保険料や公費などによって、その時々に必要となる医療や介護の給付を社会全体で支えている。

実際、2023年度の社会保障給付費は135.5兆円で、内訳は年金56.4兆円、医療45.6兆円、介護11.6兆円などである。1990年度の社会保障給付費は47.4兆円だったため、33年間で約2.9倍になった[5]。

医療では、現役世代が加入する医療保険から高齢者医療を支える仕組みも存在する。後期高齢者医療では、窓口負担を除いた医療費の約4割が現役世代の支援金でまかなわれている[6]。

2023年度の国民医療費を見ると、65歳以上は全体の60.1%を占める。人口1人当たりでは、65歳未満が21万8,000円なのに対し、65歳以上は79万7,200円で約3.7倍である[7]。

つまり、年金、医療、介護では仕組みの細部は異なるものの、社会保険料を「自分が払った分を自分のために貯めているお金」と考えるのは実態と異なる。

社会保険制度は保険であると同時に、その時点の社会全体で必要な給付を支える仕組みでもある。

少子高齢化が進めば、この構造は重くなる。

2024年時点では、65歳以上1人に対して15~64歳人口は2.0人である。内閣府の将来推計では、2070年には1.3人まで低下する[8]。

給付を必要とする高齢者が増える一方、それを支える現役世代の比率は低下する。

同じ給付水準を維持しようとすれば、一人あたりの負担を増やす圧力が強くなる。

社会保障費が増えれば、誰かが払わなければならない

社会保障について議論するとき、「財源」という言葉が頻繁に使われる。

しかし、財源という言葉には注意が必要である。

国がどこかから新しいお金を見つけてくるわけではない。

社会保障費が増えれば、最終的には、

  • 社会保険料を増やす
  • 税金を増やす
  • 国債で将来に負担を回す
  • 給付を減らす

という選択肢のどれか、あるいはその組み合わせになる。

つまり、「社会保障を維持する」という政策にも必ず負担者が存在する。

2023年度の社会保障財源を見ると、社会保険料は80.1兆円で、その内訳は被保険者拠出42.0兆円、事業主拠出38.1兆円だった。これとは別に公費負担が58.0兆円あり、社会保障は保険料だけで成り立っているわけではない[5]。

ここで社会保険料は少し特殊な位置にある。

厚生労働省は、社会保険方式と税方式を明確に区別している。社会保険料は、保険給付を受ける仕組みと結びついた負担であり、税とは制度上区別されている[9]。したがって、社会保険料が上がっても政府の公式な整理では「増税」ではない。財務省の国民負担率でも、租税負担率と社会保障負担率は別項目として計算され、その合計が国民負担率とされている[10]。

これは制度論としては理解できる。

しかし、家計から見た景色は少し違う。

所得税や住民税と同じように、社会保険料も原則として本人の意思で支払いを拒むことはできず、給与から差し引かれて可処分所得を減らす。

所得税率を引き上げれば「増税」として大きく報道される一方、社会保険料率の引き上げは別の制度変更として扱われる。

制度上は税ではなくても、働く人から見れば「額面給与から公的制度によって差し引かれる負担」であることに変わりはない。

社会保険料と税を同じものとして扱う必要はない。

しかし、社会保険料は税ではない、という制度上の分類だけで国民の負担を論じるのも不十分である。

重要なのは名前ではなく、税と社会保険料を合わせて、所得のうちどれだけを公的負担として求めているのかを見ることである。

財務省の国民負担率は、1990年度には38.4%だった。内訳は租税負担率27.7%、社会保障負担率10.6%である。2024年度の実績では国民負担率46.7%、租税負担率28.2%、社会保障負担率18.5%となっている。2026年度見通しは45.7%で、租税負担率28.0%、社会保障負担率17.6%である[10]。

社会保障負担率だけを見ると、1990年度の10.6%から2024年度の18.5%へ約1.7倍になったことになる[10]。

「労使折半」で労働者の負担が半分になるわけではない

厚生年金や健康保険では、保険料を労働者と企業が分けて負担する仕組みになっている。

制度上は「労使折半」である。

厚生年金でいえば、現在の保険料率18.3%を労使で折半するため、給与明細上の本人負担は9.15%になる[1]。

しかし、この言葉だけを見ると、保険料の半分は会社が別に負担してくれているようにも見える。

企業にとって、会社負担分の社会保険料も人を雇うためのコストである。

厚生労働省の平成23年就労条件総合調査では、2010年(または2009会計年度)の常用労働者1人1か月平均の労働費用は41万4,428円だった。そのうち現金給与額は33万7,849円、企業が負担する法定福利費は4万4,770円で、労働費用全体の約10.8%を占めた。法定福利費の内訳は、厚生年金保険料2万4,053円、健康・介護保険料1万4,845円、労働保険料5,277円などである[11]。

給与を増やせば、会社が負担する社会保険料も増える。企業が従業員一人に使える人件費には限界がある以上、その負担は賃金、採用余力、雇用形態などと無関係ではない。

もちろん、会社負担分をなくせば、その全額がそのまま労働者の給与になると断定することもできない。

しかし少なくとも、

「会社が払っているのだから、労働者の負担ではない」

と考えるのも適切ではない。

制度上の支払者と、最終的に経済的な負担を引き受ける主体は必ずしも同じではない。

社会保険料を考えるときは、給与明細に表示される本人負担だけではなく、企業負担を含めた労働コスト全体を見る必要がある。

「労使折半」という言葉によって負担が消えるわけではないのである。

企業を徴収事務の代行者として使い続ける必要はあるのか

社会保険料の問題には、もう一つ見えにくい負担がある。

企業が税や社会保険の徴収事務を大量に担っていることである。

企業は従業員に給与を払うだけではない。

給与計算を行い、所得税を源泉徴収し、社会保険料を計算し、年末調整を行い、行政へさまざまな情報を提出する。

これらは企業活動そのものではなく、公的な徴収制度を動かすための事務でもある。

企業を徴収の窓口として利用することには、行政側から見れば合理性があった。

しかも、給与などの勤労所得に対する源泉徴収制度は1940年に導入されている。戦後からどころか、源泉徴収に限れば戦前から続く仕組みである[12]。

しかし、マイナンバー制度が整備され、行政が個人単位で所得や社会保障情報を扱う基盤を持つ時代になっても、この仕組みを当然のものとして維持する必要があるのだろうか。

税務や社会保険の事務は、可能な限り企業から個人と行政の側へ移していくべきだと考える。

ただし、それは国民全員に現在の複雑な確定申告をそのままやらせる、という意味ではない。

たとえば、企業は「誰にいくら支払ったか」という情報をマイナンバーに紐付けて行政へ報告する。

行政側は給与、年金、金融所得など、すでに把握できる情報を集約し、個人にはあらかじめ入力された申告内容を提示する。

これは完全な空想でもない。2024年2月から、勤務先が税務署へe-Taxで提出した給与所得の源泉徴収票について、マイナポータル連携を使って確定申告書へ自動入力できる仕組みが始まっている[13]。令和6年分の確定申告では、マイナポータル連携の利用者は310万人に達した[14]。

本人は内容を確認し、必要な修正や控除だけを追加して確定させる。

企業に税務を代行させ続けるのでもなく、国民全員に複雑な申告書を書かせるのでもない。行政がすでに持つ情報を使い、個人の申告そのものを簡単にする方向へ進むべきである。

マイナンバーを導入したのであれば、番号を付けるだけで終わらせず、こうした事務負担の削減にまで使いこなすべきである。

現役世代の負担には限界がある

ここで重要なのは、社会保険料を理論上どこまで上げられるかではない。

人々が働き、消費し、生活を維持できる範囲でどこまで上げられるかである。

負担を増やせば、短期的には社会保障制度の収入を増やすことができる。

実際、社会保険料収入は1990年度の39.5兆円から2023年度の80.1兆円へ約2倍になっている[5]。

しかし負担が重くなれば、手取りは減る。

手取りが減れば、消費や貯蓄に回せるお金も減る。

若い世代にとっては、結婚、子育て、住宅取得といった将来の選択にも影響する。

さらに、企業側の社会保険料負担が増えれば、人を雇うコストも上がる。

負担率を上げれば上げるほど安定するほど、社会保障制度は単純ではない。

社会保障給付費のGDP比は、1990年度の10.5%から、2000年度14.6%、2010年度20.9%、2023年度22.8%へ上昇してきた[5]。

社会保障を支えるために現役世代の生活基盤そのものを弱らせれば、やがて制度を支える経済基盤も弱くなる。

ここには明らかな限界がある。

「高齢者対現役世代」という話だけでもない

この問題を世代間対立だけで考えるのも適切ではない。

現在の現役世代も、いずれ高齢者になる。

病気になれば医療制度を利用するし、介護が必要になる可能性もある。

だから、「高齢者向け給付をすべて削ればよい」という話ではない。

問題なのは、必要な社会保障を維持することと、現在の制度や給付をそのまま維持することが混同されやすいことである。

社会保障制度には、守るべきものがある。

一方で、人口構造が大きく変わった以上、昔と同じ制度設計をそのまま続けることが合理的とは限らない。

医療であれば、どこまでを公的保険で広く保障するのか。

年金であれば、給付水準と受給開始年齢をどう考えるのか。

介護であれば、自己負担と公費負担をどう分担するのか。

こうした議論を避けたまま、

「不足するなら保険料を上げる」

という方法だけを続けることには限界がある。

問題は「誰から取るか」より「何を維持するか」である

社会保障財源が不足すると、議論はしばしば「誰から取るか」に向かう。

高所得者から取る。

企業から取る。

金融所得から取る。

高齢者にも負担してもらう。

消費税で広く集める。

それぞれに一定の理屈はある。

しかし、誰から取るかだけを議論している限り、社会保障費そのものが増え続ければ、いずれ別の財源が必要になる。

最初に考えるべきなのは、

「現在の制度のうち、何を将来まで維持するのか」

ではないだろうか。

必要性の高い給付を守る。

効果の薄い給付は見直す。

所得や資産のある人には一定の自己負担を求める。

人口構造の変化に合わせて制度そのものを修正する。

そのうえで、必要な負担を国民全体でどう分担するかを考える。

順番は本来こちらのはずである。

社会保険料を上げれば解決する時代は終わりつつある

社会保険制度は必要である。

病気や障害、失業、老後、介護といったリスクを個人だけで背負う社会が望ましいとは思わない。

だからこそ、制度を長く維持できる形に変える必要がある。

社会保障給付費は、1990年度の47.4兆円から2023年度には135.5兆円まで増えた[5]。一方、65歳以上1人に対する15~64歳人口は2024年の2.0人から2070年には1.3人へ低下すると見込まれている[8]。

給付が増えるたびに保険料を上げ、保険料だけでは足りなくなれば税金を投入し、それでも不足すれば国債を発行する。

この方法を永遠に続けることはできない。

社会保障について本当に必要なのは、「負担を増やすことに賛成か反対か」という二択ではない。

何を社会全体で保障するのか。

どこまでを本人負担とするのか。

どの給付を優先し、どの給付を縮小するのか。

そして、そのために現役世代へどこまで負担を求めることができるのか。

この境界線を決めることである。

社会保険料は、法律を変えればまだ上げることができる。

しかし、上げることができることと、上げ続けてよいことは同じではない。

現役世代の負担能力にも限界がある。

その限界を無視して制度を維持しようとすれば、守ろうとした社会保障制度そのものが、やがて持続できなくなる。

参考文献

[1] 厚生労働省, 「給付と負担をバランスさせる仕組み」, 『いっしょに検証!公的年金』.
https://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/manga/07.html

[2] 全国健康保険協会, 「協会けんぽの保険料額表・保険料率の推移」.
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/shibu/osaka/public_relations/013/index.html

[3] 神奈川労働局, 「雇用保険料率」, 令和8年度.
https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudou_hoken/hourei_seido/2024_00008.html

[4] 厚生労働省, 「賦課(ふか)方式と積立方式」, 『いっしょに検証!公的年金』.
https://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/manga/05.html

[5] 国立社会保障・人口問題研究所, 『令和5年度 社会保障費用統計』, 2025年.
https://www.ipss.go.jp/ss-cost/j/fsss-R05/R05.pdf

[6] 厚生労働省, 「令和6年度からの後期高齢者医療の保険料について」.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/newpage_00009.html

[7] 厚生労働省, 『令和5(2023)年度 国民医療費の概況』.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/23/dl/R05kekka.pdf

[8] 内閣府, 『令和7年版高齢社会白書』第1章第1節「高齢化の現状と将来像」.
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2025/html/zenbun/s1_1_1.html

[9] 厚生労働省, 「年金制度の仕組みと考え方 第2 公的年金制度の財政方式」.
https://www.mhlw.go.jp/stf/nenkin_shikumi_02.html

[10] 財務省, 「令和8年度の国民負担率を公表します」, 2026年3月5日.
https://www.mof.go.jp/policy/budget/topics/futanritsu/20260305.html

[11] 厚生労働省, 「平成23年就労条件総合調査結果の概況 労働費用」.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/11/gaiyou04.html

[12] 国税庁 税務大学校, 「戦時税制」.
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/sozei/shiryou/library/15.htm

[13] 国税庁, 「マイナポータル連携で給与所得の確定申告がさらに簡単に!」.
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/mynumberinfo/kyuyogensenjoho-top.htm

[14] 国税庁, 「マイナポータル連携で自動入力!」, 令和7年分確定申告特集.
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tokushu/mynaportal-jidou/index.htm

この記事を書いた人 Wrote this article

ぜんたろう

ぜんたろう

FP2級/宅建士。お金の話が好物。インデックス投資がメインなのに個別株・ETFにも手を出す。ここ数年で投資スタイルが確立した筈だがジャンク株に心を奪われがち。 --- 永遠の見習いプログラマ (SIer複数→スタートアップ複数→大きめベンチャー)

TOP